大判例

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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7536号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕 原告は石油製品の販売を主たる目的とする株式会社であり、被告は東京身体障害者公共職業補導所等と緊密な連絡を保つて身体障害者特に身体不自由者に対する治療並に教育をなすと共に都民の厚生福祉の増進に寄与することを目的として設立された財団法人である。

そして被告は整形外科を主体とする緑成会病院の経営、保育園の経営を主たる事業とし、併せて右病院の経営に必要な資金を獲得する必要上昭和二二年一〇月ころから毛布類や石油製品を第三者から廉価に購入し、これらを他に転売してその利潤をうるような事業を営んできた。原告は被告の事務長で第三者から物品を購入するについて一切の包括代理権を有する金井弘の注文により被告に対し、昭和三三年一月末ころから昭和三三年三月ころまでの間にガソリン・ドラム罐等を売却し、一部その支払をうけたが、金二六〇万六九〇〇円の未払代金があるのでこれが支払を求める。かりに代理権がないとすれば、被告法人の被用者金井弘、常務理事高崎吉則らの共同不法行為を主張し民法第四四条第一項、第七一五条第一項により被告にたいし損害の賠償を求める、と主張した。

被告は、本件石油等の売買が被告法人の事業の範囲に属しないし、(争点第一)訴外金井は被告法人の事務長ではなく被告法人の付属病院の事務長にすぎず、被告が同人に包括代理権を与えたことはない。かりに被告に民法第七一五条による責任があるとしても、本件多量の石油類は病院を経営する財団法人にとつてはその事業の執行とは無関係であると客観的に何人からも考えられるから、原告がもし被告法人との取引を欲するならば、被告法人の理事などに対し、訴外金井の代理権の有無をたしかめるべく、またこれらを確める方法も容易であつたにも拘らずその一挙手一投足の労を措しみ漫然金井との間に本件取引を敢てした。しかもこの種一般取引において軽少な金額ならともかく、当時の代金にしても三〇〇万に近い物品の取引であるから、少くとも相手方法人の幹部に一応確かめるのが取引の信義上も社会観念上も当然で、これをしなかつた点で原告に重大な過失があり民法第七二二条にいわゆる過失相殺の規定を採用すると述べた。(争点第二)

判決は争点第一の本件取引が被告法人の目的の範囲内の取引なりや否やの点についてはこれを積極に解し、争点第二については原告に過失を認め、過失相殺の法理を適用して、金二六〇万六九〇〇円の請求のうち約その半額を減額して金一五〇万円の支払を命じ、つぎのとおり説明している。曰く。

「先ず本件のような石油類の転売を目的とする売買行為は財団法人たる被告の目的の範囲内のものといえるかどうかの点について審究するが、凡そ法人の目的の範囲内の行為とは、単に法人の定款や寄附行為に明示されたものに限ることなく、目的たる事業の遂行に必要な行為と目せられるものを広く包含するものと解する。したがつて被告のような公益的事業を目的とする財団法人であつても、他から商品を買入れこれを他に転売して利益を得るが如き行為も、その利益を以て財団運営の資とする限り当該法人の目的の範団内の行為というを妨げない。」

「次で過失相殺の当否を審理する。証人の中川博同関口賞は業者が法人との取引に際し、これを代表する代表者とか、法人を代理し得る幹部級の人に対し締結の確認を求めるようなことは一般にしていないこと、或いは当面の担当者を除外してその監督的地位にある者と交渉することはかえつて将来の悪結果を来す旨こもごも証言しているし、取引の実情においてかようなことのあり得ることはあながち否定するものではない。しかしこのようなことが世間でよくあるものといつたところでそれは取引の迅速などから必要な手続を怠つているという実情が多いということを意味するに止まり、法人を相手として取引する売主の調査の責任を免除するものとは到底理解し得ない。しかも本件取引は被告法人の直接の事業目的に関しないものであることは何人も容易に認識し得るところであるから、法人幹部において果して真にかような法律行為をする意思があるかどうかは一応疑つて見て、然るべき調査を行うのがやはり法律上この種取引において売主に科せられた責任というべきであるし、また原告も自認するように、本件石油類取引においては、納品した月の末日締切り二箇月以内に現金を以て支払う特約がありながら訴外金井よりは昭和三三年三月二〇日原告主張(一)の取引代金を支払つたのみでその後は約定期日に支払を遅延し或は一部の弁済に止まつているのであるから、かような場合には売主は直ちに法人の会計係などに出頭して正式に支払いを請求するとか或は幹部に面接し契約の真意を確かめるべく、しかも証人中川博の証言、前記甲第一号証の二によれば本件取引代金は、右第一回の支払以後は、訴外者振出の小切手、約束手形などを以てなされていることが認められる。被告法人の支払方法において、第三者振出の手形による場合のないことは証人保坂久栄の証言により認められるし、一般に財団法人の代金支払方法として第三者振出の手形を利用することのあまりあり得ない公知の事実などを考慮すれば、本件取引は金井の個人的内職として行われたものではないかとの疑を持つべきであり、その上は直ちに被告法人の幹部に問合せ或はこれに厳重な代金請求を行うことにより損害を出来るだけ小範囲に止めるべき義務があるにもかかわらず、金井が昭和三三年三月頃解職せられ病院に入院(同年七月頃死亡)後において前記中川が被告法人方に到り常務理事宮崎に面会し前後策を講じようとしたことは証人宮崎の証言で看取し得るし、しかも証人多田冨士夫の証言により成立を認め得る乙第六号証によれば原告は右金井より昭和三三月五月一九日付で財団法人多摩緑成会内金井弘なる個人的外形を有する揮発油代金支払遅延の詑と訴外塚田信雄なるものを保証人として将来の代金支払いを確保すべき念書を差入れられていることが認められ、かようなことなどに徴すれば、訴外中川等は直接被告法人より末納代金を取立てることにちゆうちよし、出来るだけ訴外金井個人よりその支払いを得ようとしたその間の消息が窺われないでもないのである。以上の事実や事情から考察すれば訴外金井の右不法行為による損害については原告にもまた過失の責を免れることができない。」

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